各種疾患(コラム)
ピロリ菌について(2015年6月13日)
当クリニックではピロリ菌の診断から治療まですべて行えます。
ピロリ菌検査として胃カメラで行う方法(組織鏡検法、迅速ウレアーゼ試験)とそれ以外の方法(尿素呼気試験法、抗体測定、便中抗原測定)を行っています。
陽性時の治療の適応の判定もかねて胃カメラを行うことをお勧めしますが、御事情に応じて臨機応変に対応させていただいています。
また、健診等で既に胃カメラ(経鼻、経口のいずれも可能です)の検査を行っている方に関しては、ご相談の上治療適応に照らし合わせて、除菌治療を行います。
【除菌療法の流れ】
胃カメラもしくはその他の検査でピロリ菌の有無を確認します。
↓約1週間で結果が出ます。
陽性で適応があれば、除菌療法を行います(1週間の内服治療)。
↓約1か月後
除菌療法の検査は尿素呼気試験で調べます。二次除菌が必要となることもあります。
ピロリ菌とは
正式名称は「ヘリコバクター・ピロリ」で胃の粘膜に棲んでいます。本体の長さは約3ミクロンのゆるやかにねじれている細菌で、細長いしっぽである「べん毛」を回転させて活発に動き回れます。(図)。主に胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因菌とみなされ、胃がんの原因ともいわれます。胃の中に住んでおり、酸を中和する酵素を持っていて、体のまわりに高いアルカリ性のアンモニアを発生させバリアのように自分の周りを覆い、胃酸から身を守っています。この作用原因で胃の粘膜に障害を起こすとされ、胃炎や胃潰瘍・十二指腸潰瘍、胃癌、悪性リンパ腫の原因と考えられています。胃潰瘍患者の65~80%、十二指腸潰瘍の90%以上にこの菌が証明されており、除菌治療により、潰瘍の治癒や再発頻度の低下が見られます。また、ピロリ菌に感染した全ての人に上記疾患が発生するわけでなく、一部の人に発生します。
ピロリ菌の感染経路
ピロリ菌のどのように感染するのかはまだはっきり解明されていませんが、大部分は飲み水や食べ物を通じて、人の口から体内に入ると考えられています。まだ免疫力が弱い幼児期に汚染された飲み水、食べ物、唾液から感染すると予想されています。上下水道の完備など生活環境が整備された現代日本では、生水を飲んでピロリ菌に感染することはありません。また、夫婦間や恋人間でのキス、またコップの回し飲みなどの日常生活ではピロリ菌は感染しないと考えられています。ピロリ菌は、ほとんどが5歳以下の幼児期に感染すると言われ、それは幼児期の胃の中は酸性が弱く、ピロリ菌が生きのびやすいためです。保菌者である両親や祖父母から赤ちゃんに食べ物を咀嚼して与える行為も主な感染源になっていると考えられ、一度感染してしまうと、除染しない限りは、一生保有することになります。成人になってからの感染は一時的な症状は出ますが自然治癒(免疫による排除)することが多いようです。ピロリ菌には日本人の約60%が感染しているといわれ、感染は衛生環境と関連しています。東南アジアや南米など衛生状況が良くない地域ではピロリ菌陽性率が高く、日本でも中高年に高率なのは、戦後の不衛生な環境が原因ではないかと考えられています。50歳代以上は、約7割が保有していると考えられています。
胃・十二指腸潰瘍
胃潰瘍や十二指腸潰瘍の患者さんの約90%がピロリ菌に感染しています。
ピロリ菌は胃の粘膜を傷つけて胃・十二指腸潰瘍を起こりやすくしたり、繰り返し再発を起こしやすくしているのです。
慢性胃炎と胃がん
ピロリ菌により、胃の粘膜が痛んだ状態が続くと、胃の粘膜は萎縮し、萎縮性胃炎という状態になります。ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎では10年間で2.9%の人が胃がんになったという報告があります
また、胃がんになった人が、ピロリ菌を除菌すると、新しい胃がんが発生する確率を減らすことができる可能性があります。早期胃がんの治療後にピロリ菌を除菌した患者さんは、除菌をしなかった患者さんと比べ、3年以内に新しい胃がんが発生した人が約3分の1だったと報告されています。
ピロリ菌検査方法
ピロリ菌の検査には、内視鏡を使う方法と使わない方法があります。
内視鏡を使う方法
①迅速ウレアーゼ検査:胃カメラにより、胃の粘膜を採取してピロリ菌の産生するアンモニアを調べる方法
②鏡検法:採取した組織を染めて顕微鏡で観察する方法
内視鏡を使わない方法
①抗体検査:血液を取ってピロリ菌の抗体を調べます(除菌後も数年は陽性が続くので、除菌後の検査には向きません)。
- 尿素呼気試験
検査用の薬を飲み、専用のバックに息を吹いてピロリ菌に分解されたガスの成分を調べます。30分程度の検査です。
③便中抗原測定:便を採取しピロリ菌が排泄されているか調べます。
治療
ピロリ菌に感染したからと言って皆さんに除菌の必要はありません。また、ほとんどのピロリ菌感染者は、症状もなく、健康に暮らしています。
ピロリ菌保有者で除菌療法の対象となる人は、ヘリコバクター・ピロリ感染胃炎、胃潰瘍または十二指腸潰瘍、胃MALTリンパ腫、特発性血小板減少性紫斑病、早期胃がんに対する内視鏡的治療後の方で、ピロリ菌に感染している人です。
「除菌療法」としては、よく使われている1種類の胃酸を押さえる薬と2種類の抗生物質を1週間内服するだけです。主な副作用は一般的な薬のアレルギー反応、下痢や味覚異常などです。1回目で成功する割合は80%です。これで、除菌できなかった場合は1種類抗生物質を変えて、また1週間、内服します。1回目と2回目を合わせた成功率は95%以上です。